明治安田生命保険相互会社
65歳への定年引上げなど計画的な高齢者活用方針
- 人事管理制度の改善
- 賃金評価制度の改善
- 戦力化の工夫
- 能力開発制度の改善
- 65歳定年制
- 人財力改革
- 段階的な制度設計
- キャリア研修の充実
企業プロフィール
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創業2004年
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本社所在地東京都千代田区
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業種保険業
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事業所数99(支社等)
導入ポイント
- シニア層に対する様々な活躍支援について、段階的に「人財力改革」を展開
- 職種再編、評価制度、処遇制度など、的確に準備
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従業員の状況従業員数 42,950名 / 平均年齢 44歳4ヵ月 / 60 歳以上の割合 8.3%
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定年制度定年年齢 65歳 / 役職定年 なし
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70歳以上継続雇用制制度の有無 無
同社における関連情報
企業概要
明治安田生命保険相互会社は、2004年、三菱グループの明治生命保険と芙蓉グループの安田生命保険が企業グループの垣根を越えて合併し発足した。総資産は業界第3位であり、大手生保4社の一角に数えられる。
営業部・営業所等が全国に953拠点あるほか、支社が全国に90社ある(2019年度始現在)。支店の事務職は1支店あたり約50名となっている。職員等の約1万名の内訳は、総合職が約7割、契約社員が約2割、その他が約1割となっている。男女の割合は男性が約4.5割、女性が約5.5割となっている。同社は、2019年4月、60歳の定年を65歳に引上げる「65歳定年制を導入」し、2015年に職員の人事制度を改正し、職種の再編、職制の整理等を行っている。
制度改善の背景
定年の引上げ検討は、時間をかけて実施。背景には同社の要員構造がある。2004年1月に安田生命保険と明治生命保険が合併し、2つの会社が一緒になったことをきっかけに早期退職制度等による要員の効率化を推進していたところ、行政処分などもあり、新規採用の苦戦と若年層を中心とした退職が続いたため30代前半層が少ない。一方でバブル期においては、職員の採用数を増やしていたことにより、40歳代後半~ 50歳代が多い要員構成となっている。一般的に他の各社もそうであると思われるが、同社は上記事業により、その傾向が極端に出ている。現在の業務量を現在の要員数で処理している状況であるが、40歳後半~ 50歳代の所謂ボリュームゾーンの者たちが退職をしていくと働き手が不足することが見込まれる。さらに総合職においては、数年後には50歳以上が過半数となる見込みである。加えてお客さまニーズの多様化、アフターフォローの充実や環境変化を踏まえ、業務量は増加見込みにある。これを踏まえ、10年以上前から「人財力改革」「人事改革」等として人財基盤の強化を図っている。その中で、シニア層については
①2013年4月にエルダースタッフ制度を創設、
②2015年4月に57歳以上の処遇調整廃止、プロ・エルダースタッフ制度の創設、
③2017年4月に契約社員エルダースタッフ制度の創設、
④2019年4月に定年年齢の引上げ(65歳定年年齢制の導入)
といった制度改正を行っている。
定年・継続雇用制度の内容
■エルダースタッフ制度
2013年4月にエルダースタッフ制度を創設したが、そのポイントとしては、①希望者全員の65歳までの雇用機会を確保する、②年金の支給開始年齢まで処遇を加算する(定額加算)、③2014年度からエルダースタッフの評価を導入したことである。職務はサポート的な職務を中心に、様々な職務を設定し、多様な働き方のニーズに対応するために短時間や短日数勤務の形態を整備した。また評価は最終評価者(所属長)による業務遂行評価及び組織業績評価に基づき、5段階のエルダースタッフ評価を行っている。評価はドライに行うが、絶対評価ではなく、パフォーマンス評価として、プロセス・結果を踏まえた点数を相対化している。なお、その過程で、個人の業績とは別に組織業績評価として、業績が良かった部署には所属全員に対して5 ~10%の加点を行っている。
■エルダースタッフ任用の流れ
60歳以降もエルダースタッフとして活躍できるよう58歳を迎えた時に再雇用希望の有無と定年後の居住地等の希望を確認し、58歳6 ヵ月以降の定期異動時(4月と10月)に再雇用時に委嘱する業務を通知する。その時点での業務と再雇用後に委嘱する業務が異なる場合は、再雇用後に関連する職務を発するようにしている。例えば本社スタッフに対して、定年後は支社のお客さまサービス業務を委嘱する場合は、58歳6 ヵ月経過後の定期異動で定年後の業務に近い職務を発令し、慣れてもらうことにしている。また再雇用直前には、再雇用後のマインドセットを身につけてもらうため、対象者全員に対して「任用前研修」を実施している。
■プロ・エルダースタッフ制度の創設
2015年4月に、役割重視とし、「頑張った人が報われる」ことを企図した制度改正を行った際に、それまでの57歳時点での処遇調整を廃止し、50代後半での大きな役割へのチャレンジも促す処遇体系とした。また2017年4月には無期転換後の契約社員については、希望すれば60歳以降も65歳まで契約社員エルダースタッフとして再雇用する制度とした。
併せて導入したプロ・エルダースタッフ制度は、能力や専門性の高い人材が継続的に大きな役割を望む場合に、高年齢者雇用確保措置とは別に、高い処遇で応じることのできる内容としている。優秀な人材の社外流出を防止することを念頭に導入した制度であり、エルダースタッフより処遇水準を引き上げる反面、雇用期間を1年とし、雇用期間満了時は更改基準を設定している。
前述のとおり、以前から65歳定年も見据えて制度改正を行う中で、プロ・エルダースタッフ制度の導入等により、中高年層がその能力・知見を発揮できることも確認できたので、さらに一歩進んで65歳への定年引上げをすることにした。
■65歳定年制の導入
2019年4月に、職員の定年年齢を60歳から65歳へ引き上げた。総合職のままシニア型に移行する仕組みとした。エルダースタッフ制度と比べ、60歳以降も管理職を含めた幅広い職務を可能とし処遇も向上させる。生活面も配慮し、事前に設定した居住地から通勤可能な勤務地での勤務を原則とする。60歳以降もエルダースタッフより高い処遇となるが、60歳未満の処遇の引き下げ調整等は実施せず、生涯年収は増加する。当面、ボリュームゾーン年齢層を抱えるため人件費は増えるが、経営判断のうえで実施した。また、職員の受け止めとしては、長く働けることを年齢層の高い職員を中心に歓迎されている。若年者においても、中高年齢で頑張っている姿に刺激を受けて自分も頑張れるというポジティブな受け止めもある。当初は、年上の部下が増加することや、シニア層のモチベーション、健康維持などに懸念もあったが、評価・処遇制度、教育研修、健康増進活動などで対応を行っている。
研修制度
65歳定年年齢引上げに伴い50歳キャリア研修を実施し65歳までのキャリアプランを考えるという研修を導入した。内容は各自で①今後の15年でどういう活躍ができるのか、②自身の経験等を踏まえてその目標を達成する方法を考える、③そのためにどんな知識を身につけていくかなどを各自で検討していくものである。研修は希望制としており、まずはやる気のある者に受講頂き、活躍するシニアとしてのモデルになるよう推進している。
今後の課題
年上の部下の増加や、部下の抱える業務の多様化等、マネジメントの難しさが引き続き課題となっている。シニア層本人のマインドセットとともに、上司のマネジメント力強化のための各種研修等も導入している。